株式取引はゼロサムゲームか? 3

株式取引はゼロサムゲームか? 2の続きです。
最後に売買手数料と譲渡税の影響について考えてみます。


まず、売買手数料ですが。
売買手数料は証券会社やコースによって様々ですし、証券ディーラーは手数料は掛かりません。
簡易的に、約定代金に対する平均手数料率を与えるとすると、次のようになります。


全投資家の合計収支 = 株式の清算総額 + インカムゲイン手取り総額 − 株式の発行売り出し総額
                − 上場中平均株価×平均手数料率×上場中の出来高総計×2

(×2は売りと買い両方に掛かるので2倍)


まぁ、売買回数に比例して手数料が抜かれていくだけの事で、あまり面白い話はありません。


次に、株式譲渡税ですが、こちらは若干面白い面があります。
株式取引はゼロサムゲームか? 1で示した、100円で売り出し、1年後に株価300円となった場合の3つのケースで
譲渡税を考慮してみます。
譲渡税方式は現行に沿って、利益売買差益に対して一律10%としましょう。(※1)


ある1株のケース1

Aさんが、新規発行時に買って1年間ホールド。

  • Aさん +200円

⇒ この1株に関わった全投資家の合計手取り収支(含み益含む) +200円


ある1株のケース2

Bさんが新規発行時に買って、Cさんに200円で売る。
Cさんは年末までホールド。

  • Bさん +90円
  • Cさん +100円

⇒ この1株に関わった全投資家の合計手取り収支(含み益含む) +190円


ある1株のケース3

Dさんが新規発行時に買って、Eさんに300円で売る。
EさんがFさんに200円で売る。
Fさんは年末までホールド。

  • Dさん +180円
  • Eさん -100円
  • Fさん +100円

⇒ この1株に関わった全投資家の合計手取り収支(含み益含む) +180円


各ケースを比べると、売買プロセス次第で合計収支が異なることが分かります。
この効果が分かりやすい極端な例を示しましょうか。


ある1株のケース4

Gさんが新規発行時に買って、Hさんに1100円で1株売る。
HさんがIさんに100円で売る。
IさんがJさんに1100円で売る。
JさんがKさんに100円で売る。
KさんがLさんに1100円で売る。
LさんがMさんに100円で売る。
Mさんは年末までホールド。

  • Gさん +900円
  • Hさん -1000円
  • Iさん +900円
  • Jさん -1000円
  • Kさん +900円
  • Lさん -1000円
  • Mさん +200円

⇒ この1株に関わった全投資家の合計手取り収支(含み益含む) -100円


なんと、年初から株価は200円上がっていても、合計手取り収支はマイナスです。


パイの争奪戦で、一部の投資家が儲けを取るほどにマイナスサムゲームに傾いていくわけです。
これは譲渡税が、「勝者の儲けを減らすが敗者の損は減らさない」仕組みであるがために起きます。
各個人が得をしようとすると全体はマイナスサムへ傾く、囚人のジレンマに似た話ですね。
この意味において、下記のように短期間で上下に激しく動く銘柄は、マイナスサムゲームの様相が強いと言えます。



最終的に、合計手取り収支の式は次のように表せます。


全投資家の合計手取り収支 = 株式の清算総額 + インカムゲイン手取り総額 − 株式の発行売り出し総額
                   − 上場中平均株価×平均手数料率×上場中の出来高総計×2
                   − 上場中の全投資家の譲渡益総額×譲渡税率


ちなみに手数料と譲渡税の大小は、売買スタイルや成績によって変わってきますが、短期、特にデイトレで細かく稼ぐ方は
手数料も軽視できないですね。
計算してみると、意外に多い場合があります。


長々とした話になってしまいました。
結局、キャピタルゲインインカムゲイン、手数料、譲渡税など一通りの要素を含めても、プラスサム、ゼロサム
マイナスサムいずれの場合も有り得る、という結論になります。
実際のところは、統計を取ってみないことには分かりませんね。


しかし、手数料と譲渡税を考えると、短期値幅取りをするのならやはり戦略が必要です。
でなければ、奪われるか、自らパイを削るだけの行為となります。
一方、素晴らしい業績成長を続ける銘柄を長期保有するにしても、既にパイを奪われてしまった株を掴まぬよう気を
付けなければなりません。
何年分もの未来のパイまで奪われた後には、例えそれがプラスサムゲームであっても、長い長い我慢を強いられます。
場合によっては、人生という時間を掛けても足らないほどに。


「株式取引はゼロサムゲームか?」に関する考察はこれで終わりとしますが、もしも論理的におかしいと思われる
ところなどがありましたら、ご指摘頂けると幸いです。


(終わり)


(※1)
実際には譲渡税を分離課税で納める以外に確定申告する選択もありますが、話がややこしすぎるので無視してます。